トリップしたら国王の軍師に任命されました。
明日香はすぐに城に残っている重臣を集めた。
「すぐに陛下を呼び戻しましょうか」
「そうね」
ペーターが緊張した面持ちで言う。重臣たちも賛成した。国王なしでは、兵士たちの士気も上がらない。
問題は、国王一行と敵軍が鉢合わせるかもしれないということだ。
「兵に農民の格好をさせた伏兵を、ジェイルの帰り道に潜ませましょう。その他は、帰り道から離れたところに敵を誘いこんで、挟み討つ」
明日香はいつものように、テーブルの上に地図を広げて作戦を伝える。
今回やろうとしているのは、戦国時代に九州の大名、島津義弘が得意とした、【釣り野伏】。一旦敗走すると見せかけ、敵をおびき寄せる。それを左右に潜ませておいた伏兵と一緒に三面から攻撃する戦法だ。
「うまくいくといいですな」
重臣のひとりが呟くように言った。
カルボキシルと痛み分けしてから、自分の信用が薄れていることを、明日香はひしひしと感じる。
「意見があるなら言ってちょうだい。すべて私の言う通りにする必要はない。だってシステインは、みんなの国だもの」
不安は表情に出さず、堂々と胸と声を張ると、重臣たちは顔を上げた。その目には驚きと、新たな希望が宿っているように、明日香には見えた。
「では、王妃さま。敵が通るであろうルートのことですが……」