トリップしたら国王の軍師に任命されました。
明け方の森は薄暗く、肌寒い。明日香はマントを手繰り寄せ、ジェイルが通ってくる帰り道の整備に取りかかった。
敵軍が隠れられないよう、背の高い草を刈る。
「王妃さま、敵が通りそうな道に罠を仕掛けるのはいかがでしょう」
「いいわね」
「伏兵を配置する場所も確認していただきます」
農民の格好をした兵士に案内され、森の中を進んでいく。ジェイルがいなくても、兵士たちは皆礼儀正しく、明日香に親切だった。
「美しい森」
自分もアミノ国に向かう時に通った道だったが、馬車を降りてゆっくり見渡すのは初めて。空を緑が覆っている。空気が澄んでいて、鳥のさえずりが聞こえた。
兵士たちが罠を仕掛けるのを見ていると、後ろから一人の若い兵士に声をかけられた。
「アスカさま、ひとつ気になる点がございます」
「なに?」
後ろを振り向くと、若い兵士は神妙な面持ちで囁く。
「あちらに流れる川を小舟が下ってきます。もしや、カルボキシルの密偵が乗っているのでは」
「えっ」
「農民たちも、城の兵たちもあまり使わぬ川なので、怪しいと……。私の思い過ごしならいいのですが」
明日香の背中がざわついた。兵士の思い過ごしでなかったら、大変なことだ。