トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「それ言うなって~」

 結局倒れていただけの休日が終わってしまう。

「ああ、頭が痛い~なくした記憶が~ああ~」

「グダグダ言ってないで、さっさとする!」

 記憶喪失をネタに仕事を休もうと思ったが、真面目な母親はそれを許さない。明日香が単に甘えていると思っているようだ。

(本気で嫌なのに……)

 半ば強制的に入らされた浴槽で、明日香はむくれた。

 それほど嫌ならやめてしまえばいい。けど、その後どうするか。

 新しい職場を探し、面接を受ける。その職場に馴染む。年下の先輩に仕事を教えてもらう。考えただけで頭痛がする。動悸まで激しくなりそうだ。

(あれ、なにこれ)

 体を洗っていたら、右腕の傷に気が付いた。刃物でつけられたような傷だ。身に覚えのない傷に、明日香は眉をひそめた。

(昼間、何があって私は倒れたんだろう……)

 医者は原因を見つけられなかった。パニックに陥ったのではないかと言われ、精神科通院を進められた。

(たしかに職場のストレスは半端ないけど、大好きな古墳でパニックになったりするかな?)

 うつやパニック障害は、もう珍しい病気でも何でもない。誰もがなる可能性があるメジャーな病気だ。だけど明日香は、自分がいきなりパニックになって倒れるというイメージは、どうしてもしっくりこなかった。
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