トリップしたら国王の軍師に任命されました。
次の日、明日香は嫌々ながらもちゃんと時間通りに出勤した。根が真面目なのは親譲りだ。
やるきゼロで窓口に座った明日香に最初に当たった客は、若い女性だった。
「通帳なくしちゃったんですけどぉ。結婚して名前変わっててー、でもまだ免許証は変えてなくてー、保険証もまだ新しいのなくてー」
(帰ってくれ……)
説明が長い。どうしてその状態で銀行に来たのか。身分証明書がなければ、新しい通帳は発行できない。
住民票を持ってきてほしいと説明すると、「面倒臭いよー。いいじゃん、なんとかしてよー」とゴネられた。根気よく説明し、今後は紙通帳がいらないネット通帳をおすすめして、ひとまず帰ってもらった。
その後も同じような面倒くさいのに銀行の利益にはならない客が続いた。どうしてか、一年に何日かこういう地獄みたいな日が訪れる。
三時に窓口が閉まった時点で、明日香はすでにぐったりしていた。
(もうやめよう……ここは私の居場所じゃない)
こんなにやる気のない自分がいると、職場全体の士気が下がる。みんなのためにも、自分はいない方がいい。
明日香は、翌日退職届を出そうと決心した。
(もっと私に合う仕事をしよう。書道を習って、御朱印を書く仕事に就くんだ。観光地の史跡や資料館のチケット売り場とかでもいい)
年号が変わって御朱印ブームが来る前から、各地の御朱印を集めていた明日香はぼんやりそんなことを思っていた。ら、最後の計算が合わず、残業するはめになった。一円でも合わなければ帰れない。それが銀行だ。
「もっと責任感と緊張感を持って仕事をしてくれよ。人様の大事なお金を預かっているんだから」
帰り際、明日香は支店長の小言を受けた。
(どっちも持っているつもりなんだけどなあ)
思ったことは口には出さず、頭を深く下げて謝った。謝っている間もアスカは頭の片隅で、御朱印のオリジナルデザインを考えていた。