トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 帰宅した明日香は、いつものように母が用意した夕食を食べ、ぼんやりとテレビを見たりネットを見て過ごす。午後十時、眠くなったので風呂に入ろうと立ち上がった明日香に、母親が声をかけた。

「ねえ明日香、あなたいい人はいないの?」

「はい?」

「毎日早く帰ってきて、ダラダラ過ごして、寝るだけじゃない。たまには男の人と食事に行くとか、飲み会に行くとか、ないの?」

 母の目線は明日香を責めると言うより、憐れんでいるようだった。

「ない……ね」

 明日香はこれまで、職場の人間に誘われたことがない。明日香の方から距離を置いているからだ。あまり自分のテリトリーに踏み込んでほしくないから。

「香澄ちゃんは、結婚が決まったそうよ」

 近所に住んでいる同級生の名前を出されてもピンとこない明日香。それほど仲良くないので、何の感慨もない。

「よかったね」

「英里佳ちゃんは、彼氏と住むから家を出ていくんだって」

「ほー」

 明日香の興味なさそうな返事に、母はため息を吐いた。それで会話は終了した。

 つまらない話題から解放された明日香は、浴槽にゆっくり浸かり、ぼんやり天井を眺めた。

「彼氏ねえ……」

 母が明日香を心配していることは、彼女もわかっている。けれど、母のために恋人を作る気にはならなかった。
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