トリップしたら国王の軍師に任命されました。
『アスカ……アスカ……!』
自分を呼ぶ声に、明日香は気づいた。
(私、寝ているはずなのに)
たしかに名前を呼ばれた。なのに、瞼は開かない。体も動かない。幽霊でもやってきたのか。明日香は恐怖で震えた。
しかし次の瞬間、瞼の裏に映像が浮かんだ。濁った濁流を、外国人たちが長い槍の柄でつついている。まるで行方不明人の捜索のようだ。急な流れに逆らえず、槍を取り落とした者もいた。
『どこだ、アスカ!』
低く、よく響く声に頭を殴られるような衝撃を受けた。
(誰。私の名前を呼ぶのは……)
視界は明日香の自由にならない。見えるのは、真剣な表情で黙々と作業をする人々だけ。叫んだ者の姿は見えない。しかしその声は、明日香の胸を容赦なく揺さぶった。
(私はこの声を知っている。誰? 誰だった?)
叫ぼうとするのに、声が出ない。
(ここだよ。ねえ、あなた。私はここにいるよ)
心で訴えても、声の主には届かない。
『陛下、カルボキシル軍が近づいてきております。これ以上の捜索は、作戦に支障をきたします』
別の声が聞こえた途端、画像が荒くなった。粒子は大きなぼやけた粒になり、鮮明さをなくしていく。
(待って。私はここにいるのに!)