トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 全身の力を振り絞って右腕を突き出す。同時に、どうしても開かなかったまぶたが解放された。

 透明の粒がまつ毛の先から飛び立つ。重力に逆らえず頬に帰ってきたそれは、次から次へと溢れる涙に紛れて、流れ落ちた。

 空気を掴んだ明日香の右手が、力なく布団の上に倒れる。

「……何だったの……?」

 普段は夢を見ても、起きた瞬間にどんな夢だったか忘れてしまう。けれど、ついさっき見た夢は、いつまでも明日香の脳裏から離れない。

 特に、彼女の名前を呼ぶ声は、鮮明に鼓膜に残っていた。

 どうしてかはわからないけど、胸が痛い。明日香は声を殺して泣いた。


 それから五夜連続で、明日香は濁流と不思議な声の夢にうなされた。

 おかげでぐっすり眠れた気がせず、日中はいつも倒れそうなほど眠かった。毎日のようにミスをしそうになるのを、寸でのところで堪えている状態だ。

「そろそろカウンセリングに行こうかな……」

 目の下にクマを作り、ふらふらと帰ってきた明日香を、両親も心配した。

「早くご飯食べて寝なさい」

 明日香は部屋着に着替え、ぐでんとソファに座った。食事を出されるまでの間、ぼんやりとテレビを眺める。

 頭痛がするほど眠くて、少し目を閉じようとした。微かに開いていた目に、夕方のニュース映像が流れる。

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