トリップしたら国王の軍師に任命されました。
明日香は新調したばかりの携帯だけを持ち、部屋着のまま家を飛び出した。向かうは、自宅から徒歩五分で着く、古墳だ。
誰でも自由に登れるようになっている古墳だが、さすがに夕方を過ぎると不気味な雰囲気が漂っていた。辺りは暗く、街灯も届かない。
例の槍が見つかったせいか、階段の途中から立入禁止になっていた。カラーコーンとロープで簡単に閉鎖されている。
地域の掃除当番ならここで大人しく引き返すだろう。しかし明日香は、周りに誰もいないことを確認したあと、闇にまぎれてこっそりとロープをまたいだ。
誰かに見つかると通報されかねないので、懐中電灯も持たず、携帯のわずかな灯りを頼りに古墳の頂上まで歩く。
『アスカさま……』
『アスカさま……』
自分を呼ぶ声が、木々の間から聞こえてくる。
不気味なそれに背筋を震わせながらも、明日香は足を進めた。
何度も階段から足を踏み外しそうになりながら、なんとか頂上に辿り着く。明日香を待っていたのは、昼間の百倍不気味に見える社だった。
(そういえば、古墳ってそもそも古代人のお墓だもんね)
不気味で当然。明日香は深呼吸をして辺りを見回す。