トリップしたら国王の軍師に任命されました。
時は唸る。空間は捩れる。明日香の体は流される。遥か遠い、別の宇宙へと。
「うぷわ!」
意識を取り戻すと同時、明日香は呼吸困難に襲われた。顔に思い切り水がかかったのだ。
(よりによって、水の中なのっ?)
水中にいると自覚した途端、水面に浮いていた明日香の体が沈んだ。溺れるまいと、余計な力を入れてもがいてしまったためだ。
(待って待って。トリップした途端に死んじゃう)
必死で水を掻いて水面に上がる。泳ぎは得意ではないが、もがきながら前方を見渡した明日香は絶望した。
(陸がない……!)
ということは、ここは海の上か。
異世界に人食いザメがいるかどうかはわからないが、泳ぎの苦手な明日香にとってはまさしく絶望的な事態だった。
衣服が水を吸い込んで重くなっている。とにかくどこかへ泳いで、見えない陸を目指すしかない。
(でも、どっちに進めばいいのかわからない)
下手に動いて沖に向かったら元も子もない。なんとか体を反転させて後ろを振り返った明日香の目に、希望の光が映った。
(船だ)
鉄板が張られた大型の軍艦が、その横腹を見せている。
(この船、どこかで……)
じっくり思い出すより先に、体が沈む。助けを呼ぶために叫びたくても、口を開けると海水が入ってくるだけで、声が出ない。