トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 水しぶきを上げてバタバタもがいていると、軍艦の甲板から声がした。

「みんな来て! 誰かが溺れてる!」

 甲高い声にハッとする。必死に見上げると、甲板に並んだ乗組員たちがこちらを見下ろした。

 その中に、一際目立つドレッドヘアの男が。彼は明日香の姿を見つけると、顔色を変えた。

「早く助けろ!」

 下知が飛ぶと、明日香に向かってロープを縛りつけた樽が投げられた。明日香は必死でそこまで泳ぎ、樽にしがみつく。

「引き上げるぞ。そーれっ」

 掛け声とともに、水面から引っ張りあげられる。ロープは風に揺れ、明日香は生きた心地がしなかった。

 甲板に引っ張り上げられた明日香は、そこにいた男たちに支えられ、ゆっくりと横たえられた。

「あーーっ! この女、オレに説教たれた女じゃないか!」

 荒く息をする明日香は、甲高い声の主を見上げた。女の子なのに野生の猿みたいな、海賊の娘だ。

 驚いたのは、明日香も同じだった。鉄甲船にドレッドヘア。まさかと思ったけど、本当にディケーター海賊団の船だったとは。

「アスカ王妃、なぜこんなところに」

 毛布を持って駆け寄ってきたのは、海賊の頭領ディケーターだった。ドレッドヘアを揺らし、明日香を毛布でくるむ。
 
「王妃がいなくなったと、システインのやつら大騒ぎしてたぞ」

 でっぷりと太った海賊が言った。

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