トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「川から海に流されていたということか……いやそれにしても、無事でよかった。やはりあなたは奇跡を起こせるのかもしれない」
いや違う。川に落ちて、一度異世界に戻ったのだ。そして、また古墳からこちらの世界に戻ってきた。
そう説明しようとしたけど、やめた。今の明日香には、うまく説明できる自信も、長い話をする体力もなかった。
「ねえ、私は何日くらい行方不明になってたの?」
「たしか、三月は余裕で」
「みつき!?」
人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり。
信長が好んで舞ったという幸若舞、「敦盛」の一説を、明日香は思い出す。
人間界の五十年など、天上界では夢幻のような一瞬であるという意味だ。
こっちの世界と明日香のいた世界では、時の流れが違うらしい。そこに規則性は見えない。
「システインはどうなったの。ジェイルは? 川に落ちる寸前、カルボキシル軍が向かっているって情報があって……」
居ても立っても居られず、明日香は上体を起こし、ディケーターの腕を掴んだ。
ディケーターは言いにくそうに声を小さくした。その眉間の皺を見て、明日香の胸に不安が渦巻く。