トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「あなたはその情報を掴んでいて、あのとき忠告してくれたのね」
結婚祝いと言って武器弾薬を贈ってくれたディケーターとの会話を思い出す。
『近くにいる者に気を付けた方がいい』
『え?』
『確かな情報ではないが、何者かがカルボキシルと繋がっているという噂があります』
あれは、アーマンドのことではなく、バックスのことだったのだ。
「申し訳ない。たしかな情報ではなかったから、システインをひっかきまわすことになってはいけないと思い、名前までは言えなかった」
「そう……」
「引き続き情報を集めている最中に、バックスは自分で正体を現し、あなたは行方不明になってしまった」
ディケーターを責める気にはならなかった。明日香やジェイルも、バックスを疑うことをしなかった。それどころか、調査さえ彼に一任していた。
「私たちが甘かった」
呟き、身を震わせた。水を吸った衣服が、体温を奪っていく。
「続きは着替えてからにしましょう」
ディケーターが明日香を抱き上げようとする。けれど彼女はそれを辞退し、自力で歩くことにした。
「ねえ、それで、ジェイルはどうしているの? それだけ先に教えて」
青く凍える唇で尋ねた明日香に、ディケーターはやっと優しく微笑んだ。
「生きています。あなたの帰りを待ちわびているという噂ですよ」
柔らかい言葉に、明日香の胸にはびこる不安が、少しだけ溶けた。安堵の息を吐いた彼女の頬に、一筋涙が流れた。
(すぐ会いに行くからね)
異世界の甲板を、踏みしめて歩く。ふらつきながら前に進む彼女の奇妙な服装を、海賊たちは興味深げに見ていた。