トリップしたら国王の軍師に任命されました。
王城をカルボキシルに奪われたシステイン軍は、港のある南の地に敗走した。
貴族の城を借りたジェイルたちは、容赦なく追いつめてくるカルボキシル軍の次の攻撃に備えて会議を開いていた。
重臣の一部は、戦いの最中に命を散らした。残った者たちは疲労困憊していたが、それでも裏切り者が出なかったことが救いだった。
(アスカがいてくれれば……)
降伏しようと言いだす者はいないが、会議はまったく活気がなく、遅々として進まない。
カルボキシル側は徹底的にシステインを崩壊させるつもりらしく、和解の使者がくることもなかった。
これ以上追いつめられれば、背後は海だ。システインは国王もろとも沈没するしかないのか。苦渋の表情で重臣が呟く。
「籠城するしかありませんな」
あまりに南に追い詰められ、友好国も簡単にたどり着けない状況だ。それぞれ援軍を出してくれてはいるが、ことごとくカルボキシル軍に追い払われているらしい。
(ここまでか……)
ジェイルは長いまつ毛を伏せた。これ以上の戦いは、人々を不幸にするだけだ。
決心して目を開くと、重臣たちに向かって決然と言い放った。
「籠城はしない」
籠城戦は時間がかかり、負ければ城内が悲惨な状況に陥る。人が人の死肉を食う事態にまで発展することもある。