トリップしたら国王の軍師に任命されました。
ジェイルは明日香が残していった言葉を思い出していた。
「俺が一人で腹を切ろう」
重臣たちが目を見開いた。
「腹を切るとは?」
「ああ、アスカの国の言葉だ。敵に降伏し、自害することさ。使者を出そう。俺一人の命を差し出すから、他の者の命は助けてくれと」
とんでもないことを言い放たれ、重臣たちは冷汗をかいた。
「ご冗談はおやめください、陛下」
ペーターが悲痛な面持ちで叫ぶ。
「冗談ではない」
バックスが欲しているのは、システインの玉座。憎んでいるのは、突然現れて国王の座に就いたジェイル。
自分の首を取るまでバックスが諦めないであろうことを、ジェイルは予想していた。そのために、国民を巻き込んではいけない。
「これでも国王だからな。民のために死ねるなら本望だ」
心配なのは、王族の血を引く甥っ子たちだ。ジェイルが処刑されたあと、彼らがどうなるかはわからない。
「俺が時間を稼ぐ。甥っ子たちを友好国へ亡命させるんだ」
「陛下……」
「馬をひけ。バックスの元へ行く」
マントを翻し、城の外へ出ていこうとするジェイル。青ざめた重臣たちが後を追う。
「お待ちください、陛下。どうか、どうか」
ペーターにしがみつかれて、歩みを止めた国王は、ぽんと手を打った。