トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「そうだ、先に予告しておかないとだな。誰か、国王が降伏すると使者を送ってくれ」
辺りはしんと静まり返る。返事をする者はいなかった。
空間が凍り付いた、そのとき。
「陛下、陛下──!」
大きな玄関扉を開け、ひとりの兵士が駆けこんできた。
「敵襲か。それにしては早いな」
広い玄関ホールに緊張感がみなぎる。しかし兵士は首を横に振り、唾を飲み込んでから答えた。
「ディケーター海賊団が、港に着きました!」
「なにっ」
その場にいた者たちの目に、希望が宿った。
航海に出ていて留守だったディケーター海賊団が帰ってきた。結婚祝いをくれた彼らだ。普段はどこの国にも肩入れしないという噂だが、もしかしたら力を借りることができるかもしれない。
「それだけではありません」
早速交渉に向かうことを考えていたジェイルに、兵士は恭しく頭を下げた。
「アスカさまが……王妃さまがお戻りになられました! ディケーター海賊団と一緒です!」
その場にいた全員が息を飲む。
「陛下……」
ペーターが隣のジェイルを見上げたときには、もうそこに彼はいなかった。
「陛下!」
既に玄関の外まで、ジェイルは駆け出していた。
疾風の如く駆けていく国王を追って、重臣たちも大慌てで後を追った。