トリップしたら国王の軍師に任命されました。
(私の話、信じてくれるかな。裏切り者だと思われていたらどうしよう)
だんだんと不安になる。ディケーターはジェイルが明日香の帰りを待っていると言うが、実際はどうだろう。
苦しくなっていく胸を抱え、山道を急ぐ。三十分ほど行ったところで、山の上の方から地鳴りのような音が聞こえてきた。
「なにかしら」
海賊たちは馬を止める。地響きはどんどん大きくなっていく。
「蹄の音だ。システイン軍か」
明日香はごくりと唾を飲み込んだ。ディケーターはゆっくりと馬を進める。背の高い木々が生い茂る道を進んでいくと、やがて広場のような開けた地に着いた。
そこで、海賊たちは馬を止めた。地鳴りが止む。静かになった道の向こうに、何頭かの馬が見えた。
「あ……っ!」
先頭に立つ白馬が、葉の間から差し込む陽光に照らされてまばゆく光る。それに乗っていたのは、身軽な軍服だけを着た、美しき国王。
漆の如く艶やかな黒い髪。アクアマリンを埋め込んだような瞳。
明日香の心臓が跳ね上がる。
「ジェイル……」
先に馬を降りたディケーターの手を借り、地上に着地する。ジェイルもひらりと身を翻し、馬の傍らに立った。
見つめたジェイルは微妙な表情をしていた。泣きだしそうでもあり、怒っているようでもある。