トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「この城を捨てる?」
「正しくは、捨てたふりをするの」
カルボキシル軍との衝突は目前に迫っている。明日香とジェイルはすぐに軍議に入った。もちろん、重臣たちも一緒だ。
「ここから見えるあの島。地図で見ると、あそこにもシステイン領の城があるの」
明日香は窓の外を指さした。海の上に小さな島がぷかりと浮かんでいる。海に面した山の上に、城がある。しかし今いるところからでは見えないくらい小さい。
島には城と小さな教会がある。一応、そこを領地としてつつましく暮らしている貴族が城を守っていた。
「あそこに、私たちが逃げたという噂を流すの。実際には重臣の誰かに先に入ってもらう」
「俺たちは?」
「港に待機する」
明日香は紙とペンを用意させ、島の地図を拡大して書いた。島の北西部に城はある。
「カルボキシル軍は、自分の領地から船を出す」
今は北にいるカルボキシル軍だが、彼らが持っているのは馬くらい。船が必要となると、一度自分の領地に戻らなくてはならない。そこから船団を向かわせるはずだ。
「東の方から島の南側を通り、西側に回り込む。私たちはここからそっと、夜のうちに島の北から上陸するの」
明日香は続けた。