トリップしたら国王の軍師に任命されました。
一週間後。
カルボキシルから出発した船団は、システインの海に浮かぶ島に到着した。
城のすぐ近くに船団を置いたまま、兵士たちが上陸する。
(こんなところに逃げ込むとは)
指揮官であるバックスは山上の城に向かい、兵を進める。見上げた空には、どんよりと暗い雨雲がたれこめていた。
「バックスさま、雨が」
ぽつりぽつりと落ちてきた雫は、すぐに大雨に変わった。風も強く、日が暮れて暗くなってきた。
これ以上進むのは危険と判断したバックスは、山の中で野営することに決めた。
この雨を喜んだのは、システイン軍である。
強い嵐の中を進むのは危険ではあるが、敵から見つかりにくいという利点がある。
「嵐になれば完璧とは思っていたけど……まさか、こんなに揺れるとは」
高波に揺られた明日香はすっかり船酔いしていた。けど、のんびり休んでいる暇はない。ジェイルに支えられ、上陸次第敵軍の裏に回り込んだ。
「今回はなんという作戦名なんだ? 前はカワナカジマ、その前はタカマツジョウ、その前は……」
明日香の気分を楽にしようとしているのか、ジェイルが軽い話題をふってくる。
「長篠ね。今回は、厳島」
「イツクシマ?」
「昔、毛利元就って人と陶晴賢って人がいてね……うぷ。ちょっとごめん」
軍服を着て采配を持った明日香は、手近な茂みによろめいた。その背中を、優しくさするジェイルであった。