トリップしたら国王の軍師に任命されました。
頬を打つ激しい雨の中、システイン軍は城を見下ろせるくらいの高さまで山道を登った。野戦では、高所を取った方が断然有利である。
兵士たちはそれぞれ暗闇の中で布を使い、テントのように屋根を作った。ジェイルと明日香も同じようにして二人だけが入る幕を張り、雨をしのぎ、夜明けを待つ。
「あーーーー疲れた。現代ならテントがあるのに」
防水性のある布を敷いたところに、明日香は座り込む。
「ゲンダイ?」
「私が住んでいたところ。スイッチ一つで灯りがつくし、蛇口をひねれば水が出る。ここよりずっと文明が進んでいるの」
ジェイルは布で明日香の濡れた髪を拭く。
「なんだそれ。全然想像がつかない」
「だろうね」
「そっちの世界の方が、お前にとっては住みやすかっただろうな。一度戻れたのに、また不便な世界に呼び戻されてしまった。不運なやつだ」
苦笑するジェイルの手が止まった。
「……やっぱり、もといたところに戻りたいと思うか?」
アクアマリンの瞳に覗き込まれ、明日香はじっと見返す。
「ううん。あんまり思わない」
考えてみれば、ジェイルと元の世界の話をゆっくりするのは、初めてかもしれなかった。
「便利で何でもある世界だったけど、私は全然幸せじゃなかった」