トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「それに……ジェイルはここにしかいないし」

 照れくさいついでに、勇気を出した明日香はジェイルの肩に頭を預けるようにして、寄り添った。

「じゃあ、俺がそっちの世界に行けば一番いいわけか?」

「……ハッ!」

 明日香は想像した。便利で何でもある世界に、ジェイルがいたら。

 つまらない仕事も頑張れる気がする。結婚しても彼は天涯孤独だから、嫁姑問題もない。

「い、いやいやいや! もう川に溺れたくないし! 溺れたとしても、現代に辿り着けるかわからないし」

 体を離し、ぶんぶんと首を横に振った。実際、どうすれば現代と異世界を行き来できるか、謎が多い。出入り口もひとつではなさそうだ。

「はは、たしかに」

 明日香の慌てように、ジェイルは噴きだした。

「溺れた時は本当に死ぬかと思ったから」

「そりゃそうだ」

 ジェイルがそっと、明日香を抱き寄せる。ドキッとした彼女は、途端に静かになった。

「本当に、生きていてくれてよかった」

 愛しい人のぬくもりが、明日香の胸にじんと染みわたる。

(帰ってきてよかった)

 心からそう思った。

 たとえこの世界が、醜い裏切りや、私欲にまみれた戦争でいっぱいだとしても。

(ここには、ジェイルがいる)

 たったそれだけで、強く生きていける気がした。

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