トリップしたら国王の軍師に任命されました。
最後尾で叫ぶバックスの命令に従い、兵士たちは誰より目立つジェイル目がけて斬りかかる。
「やらねえよっ」
ジェイルは身軽に剣を振り回す。向かってくる敵の刃を右へ左へと受け流す。受け流されてバランスを崩した敵は、ジェイルを守る重臣に切られた。
明日香は見事な剣さばきに見惚れつつ、小高い丘から敵軍が崩れていくのを確認していた。
城を包囲していた敵はシステイン軍に蹴散らされ、まともに陣形を取ることもできず、敗走していく。
その中に、兵士たちに囲まれて走るバックスの姿を見つけた。
「皆、陣形を組みなおして。敵を海辺に追い立てるの!」
興奮状態だったシステイン軍は、明日香の命令で我に返る。重臣たちが手際よく彼らを並ばせた。
その間にバックス軍は山を下っていた。システイン軍は追いつかないよう、適度な距離を保ちつつ彼らを海辺へと追いつめる。
「仕方ない、退却だ。船に乗り、この島から離脱する」
バックスが言わずとも、奇襲でボロボロになった兵士たちは、全速力で逃走していた。
「もうすぐだ。冷静に、それぞれの班の船に……」
木々が生い茂る森を抜け、浜辺に出たバックスはあ然とした。
待機していたはずの船団が、一隻もなくなっている。