トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「何故だ。船団はどこへ行った」
海戦に長けた兵士がそれぞれの船を守るために乗っていたはず。
しかしいくら眺めてもそこに船はない。残っているのは立ち昇る黒煙と、何かが燃えた後に残る木くずだけ。
呆然自失するバックス軍に、強い横風が吹きつける。
風は海上の黒煙を華麗にさらっていった。その向こうに現れたものに、バックスは息を飲む。
「海賊か……!」
巨大な鉄甲船に翻るのは、まさしくディケーター海賊団の旗だった。左右にも同じ旗の船が数隻並んでいる。
「観念しろ、バックス。お前たちの船はなくなった。カルボキシルに退却する術もな」
バックスが振り返る。そこにはジェイル率いるシステイン軍が冷静に整列していた。
「海賊を味方につけたか。あの者たちは、誰にも従わないという噂だったが」
じりじりと後退するバックスに、ジェイルは返答しなかった。
「降伏しろ」
「いいや、それはできない」
バックスは兵士たちに向き直ると、大声で彼らを鼓舞した。
「もう少しだけ持ちこたえろ。先ほど伝令兵を向かわせた。教会に控えている援軍がもうすぐ現れるはずだ!」
彼の計算では、援軍はシステイン軍の背後を突くはずだった。そうなれば明日香たちは挟み撃ちにされる。
「援軍は来ないよ」