トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「こうするのは久しぶりだな」

 耳元でジェイルが囁く。たしかに、カルボキシルに裏切られてからそれどころではなくなった。島の戦いのあともなんだかんだ忙しく、同じタイミングでベッドに入れない日も多かった。

 しかし昨夜、ペーターは結構はっきりと、ふたりに告げた。

『情勢も落ち着いてきたのだから、そろそろ子作りに励んでもらわなければなりません』

 ペーターの命令で、侍女は初夜のように気合を入れ、明日香の身支度を整えた。その間、ジェイルは暇つぶしにアーマンドを付き合わせて話をしていた。

「……少し痩せたな」

 一糸まとわぬ姿になった明日香の肌に唇を寄せ、ジェイルが呟く。

「苦労したからね」

 島での戦いも辛かったけど、システインの南端から北端の王都までの道のりも辛かった。万歩計で計っていたら、とんでもない歩数になったことだろう。

 冗談で言ったのに、ジェイルはぴたりと動かなくなった。アクアマリンの瞳が明日香を見つめる。

「……後悔しているか? 俺と結婚したことを」

 ジェイルは明日香の右手をすくい、甲に口づける。

「今は平和だが、これからはわからない。お前は王妃でありながら、軍師だ。戦争があれば無関係ではいられない」

「うん」

「これからも苦労をかけると思うが、それでもいいか」

 明日香の胸は高鳴る。ジェイルの言葉がまるで、二度目のプロポーズのようで。

 うなずくと、ジェイルは左右対称の完璧な微笑みを浮かべた。

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