トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「まあ、いい男。このへんの人じゃないわね。奥さんは異国から来たのかしら?」
「ええまあ」
早速夫婦に見られ、明日香は照れて笑う。しかしジェイルはそっけなく、返事もせずにその場から離れてしまった。明日香は慌てて後を追う。
(ジェイルって、私には優しいけど、ふもとの人たちには全然心を開いてないみたい)
まるで自分の存在を知られたくないみたいだ。普段は必要がない限り山の奥に引っ込んでいるし、意外に人付き合いが苦手なのかも。
そんなことを考えて歩くうち、目の前を元気な子供たちが駆けていった。そのあとを母親らしき人がついていく。
「あんまり遠くに行っちゃだめよ」
「はーい」
微笑ましい光景だ。明日香は右手を握るジェイルに話しかけた。
「そういえばジェイルのお母さんって……」
ふと気になって口にした明日香の言葉に、ジェイルは表情を強張らせた。
(もしや、いけないことを聞いた?)
自分の口を押えた明日香に、彼が咳払いをして答える。
「俺が幼い時に、亡くなった」
「えっ……」
「見せてやりたかったよ。俺も大人になって、花嫁を迎えるんだって」
寂しそうに笑うジェイルに、明日香は何も言えなかった。
「そんな顔をするな。美人が台無しだ」