トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「まあ、いい男。このへんの人じゃないわね。奥さんは異国から来たのかしら?」

「ええまあ」

 早速夫婦に見られ、明日香は照れて笑う。しかしジェイルはそっけなく、返事もせずにその場から離れてしまった。明日香は慌てて後を追う。

(ジェイルって、私には優しいけど、ふもとの人たちには全然心を開いてないみたい)

 まるで自分の存在を知られたくないみたいだ。普段は必要がない限り山の奥に引っ込んでいるし、意外に人付き合いが苦手なのかも。

 そんなことを考えて歩くうち、目の前を元気な子供たちが駆けていった。そのあとを母親らしき人がついていく。

「あんまり遠くに行っちゃだめよ」

「はーい」

 微笑ましい光景だ。明日香は右手を握るジェイルに話しかけた。

「そういえばジェイルのお母さんって……」

 ふと気になって口にした明日香の言葉に、ジェイルは表情を強張らせた。

(もしや、いけないことを聞いた?)

 自分の口を押えた明日香に、彼が咳払いをして答える。

「俺が幼い時に、亡くなった」

「えっ……」

「見せてやりたかったよ。俺も大人になって、花嫁を迎えるんだって」

 寂しそうに笑うジェイルに、明日香は何も言えなかった。

「そんな顔をするな。美人が台無しだ」

< 22 / 188 >

この作品をシェア

pagetop