トリップしたら国王の軍師に任命されました。
明日香を先に乗せ、ジェイルは馬に跨った。逃げ惑う人々を器用に避け、山道の方へ入っていく。すぐに人の姿はまばらになった。彼らは逆方向を目指しているらしい。
「山火事になったら逃げられなくなるわ」
「ああ。早く父さんに知らせて、避難しなくては」
必死に疾走する馬にしがみつき、山を登った彼らが見たのは、信じられない光景だった。
「何あれ……」
山小屋のドアは開け放たれ、中から甲冑を着た男たちが行ったり来たりしている。何かを探しているのか。重い家具を倒し、床板を引っぺがす音が無慈悲に響く。
(泥棒? 盗賊団? でも、西洋の騎士のような甲冑を着ている)
馬から降り、木陰から様子をのぞくふたりの前に、捕縛されたペーターが、甲冑の男たちに突き飛ばされるようにして小屋から出てきた。
「ちっ」
ジェイルは舌打ちをする。いつも涼し気なアクアマリンの瞳が、怒りに燃えていた。
「アスカ、どこかに隠れていろ。まずくなったら、逃げろ」
「え、ちょ、そんなのムリ……」
「見殺しにはできない!」
言うが早いか、ジェイルは武器も持たずに走り出してしまった。明日香は馬の手綱を握ったまま、固唾を飲んで見守るしかできない。