トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「おいじじい、そろそろ吐け。王子はどこだ」
怒鳴るように詰問する声が明日香のところまで聞こえてきた。
(王子? 王子って、誰?)
混乱する明日香の存在を知らず、ペーターが返事をする。
「何をおっしゃっているのか……人違いではありませんか」
「調べは上がっているのだ。お前はシステイン国のかつての重臣、ペーター・バートだな」
ペーターの声は小さくて聞こえなかったが、無駄に大きな男の声は聞こえた。
(うそぉ。ペーターが国の重臣だった? 彼らはペーターを捕えにきたの?)
一方ジェイルは、木の陰に隠れながら移動し、小屋を取り囲んでいた男のひとりに踊りかかった。
「く、曲者!」
後ろから男を引き倒したジェイルは、落ちた剣を拾った。素早く柄で男の腹を突く。男はぐえっと呻いて、その場に倒れた。
(え、ちょ、強っ。強いんだけど)
男の顔が地面に着く前に、ジェイルは走り出していた。その目は真っ直ぐに、ペーターを捕えた男の顔をにらむ。
「ペーターを放せ!」
吠えたジェイルは、なんと剣をナイフのように軽々と振り上げ、男の顔目がけて投げつけた。
矢の速さで跳んでくる剣に怯み、男が思わず手を放す。ペーターが屈んだ瞬間、剣は男の右頬と耳を掠めて後ろの木に突き刺さった。