トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「ぐわ、あああっ」
耳を押さえて悶絶する男から、ペーターが必死に離脱し、ジェイルに駆け寄る。
(ああ、ダメ)
一人動けなくなったとしても、敵はまだ十人ほどいる。小屋の裏側を捜索していた者、小屋の中から出てきた物に武器を突き付けられ、丸腰の二人はあっという間に包囲されてしまった。
(どうしよう、なんとかしないと……)
おろおろする明日香の後ろから、新たな足音が近づいてきた。
(また敵?)
絶望に打ちひしがれる明日香の前に、木々の間から馬に乗った騎士たちが静かに姿を現す。
騎士たちは鎧を着ておらず、紺色の軍服を身に付けていた。
「撃ち方用意」
指揮官らしい男の声が聞こえ、騎士たちは弓を構えた。明日香はその場にへたりこんだ。
(終わった。異世界での冒険、もう終わった……)
「撃てっ!」
弓が一斉にブウンと鳴る。光る矢じりは明日香の頭の上を通過し、ジェイルとペーターに向かっていく。
明日香は目を覆った。ドスドスと、矢が肉に食い込む音がした。複数の人間が倒れた気配を感じ、震えが止まらなくなる。しかし。
「ご無事ですか、ジェイル殿下!」
明日香の横を騎馬隊が通り抜けていく。おそるおそる目を開けると、鎧の男たちが首に矢を受けて絶命していた。