トリップしたら国王の軍師に任命されました。
本能寺の変で織田信長が斃れた後と同じ。柴田勝家と豊臣(当時は羽柴)秀吉はそれぞれ信長の子の後見人になり、争った。幼いジェイルの甥っ子たちは、権力者の道具にされてしまう。権力争いに敗れれば、命さえ危ない。
「む……」
ジェイルは考えるそぶりを見せた。そのとき。
「頼む……ジェイル……この国を……孫たちを守ってくれ……」
掠れた声で、国王が言った。ジェイルが強く手をにぎる。
「父上! 父上!」
国王は答えない。眼球は上転し、苦しそうにしていた下顎呼吸も停まった。彼の命はとっくに尽きていたのかもしれないと、明日香は思った。ジェイルが到着するのを待ちわびていたのだろう。
「父上……」
脈が止まった国王の手を握り、ジェイルは目を瞑った。明日香は彼に寄り添う。
「お父様はきっと、ジェイルを待っていたのね」
彼の命はとっくに尽きかけていたのだろう。それでも息子が到着するまでは、と頑張っていたに違いない。
「……最後の願い、しかと聞き届けました」
ジェイルは泣かなかった。泣く代わりに、国王に向かってはっきりと告げた。
「最善を尽くしましょう。だから父上、どうか安らかにお眠りください」
国王の動かぬはずの顔が、彼の言葉に安心したように明日香には見えた。
その場にいた誰もが、静かに黙祷を捧げる。すすり泣く声があちこちから聞こえた。