トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「彼女はアスカ。異世界から来た。彼女には俺の、いやこの国の軍師を勤めてもらう」
美しい新国王がはっきりと言うと、一度静まった広間に再びざわめきが起きる。
「たしかに、変わった顔立ちをしている」
「目の色も肌の色も、私たちとは違う」
明日香は注目を浴び、緊張した。質素な服が、彼女の日本人らしい小柄な体格を際立たせていた。
「伝説の、『外国の軍師』か」
親衛隊のひとりがそう独り言を言った。彼はアーマンドの配下である。
明日香は大胆にも、自分こそが予言の軍師だと周りに思いこませようとし、アーマンドと事前に打ち合わせをしたのだ。
もともとシステインに『軍師』という役職はなく、国王と王子たちでその役目を果たしていた。
明日香が『軍師』を名乗ったからといって、誰も地位を奪われるわけではない。が、突然現れた見知らぬ女に、人々はどよめく。
「そういえば、そんな予言があったな」
「だから国王陛下は、ジェイル殿下を大切にお隠しになっていたのか」
「しかしあんな小娘に任せて大丈夫なのか」
好き勝手に話しはじめる貴族たちを黙らせるように、バックスがごほんと大きな咳払いをした。
「もう殿下ではない。ジェイル様こそ、国王陛下である」
その場にいた者たちが黙る。
「このお二人が城に戻られたからには、システインは無敵である。各々、誠意を持ってお仕えするように」
賛成派は歓喜に沸き、反対派は苦い顔をして、ひとまずバックスの発言を受け入れた。まずはお手並み拝見といったところだろう。