トリップしたら国王の軍師に任命されました。
(うまくいかなかったら、さっさと隠居してしまえばいい)
明日香の脳裏に浮かぶのは、街に火を放たれて逃げ惑う人々の顔だった。
(武将が戦うのは当たり前だけど、庶民を巻き込むのは許せない)
戦って収入を得る兵士たちが傷つくのは仕方がないと明日香は思っている。昔読んだ新撰組漫画の影響だ。
(私がジェイルを支える。彼を天下人にして、この世界を平和にするのよ)
元の世界では成しえなかったことが、この世界ではできるかもしれない。いや、それはただの妄想で、やっぱり自分にはなにもできないのかもしれない。
期待と不安の間で揺れる明日香の手を、ジェイルが握った。彼女は隣に立つ美しい王の横顔を見つめた。
「新国王陛下、万歳!」
多くの視線にさらされ、ふたりは強く手を握り合う。
ひとりでは不安に押しつぶされそうだが、ふたりならなんとか支え合える。
激しい荒波に押しつぶされそうな圧力を感じながらも、ふたりはしっかりと舞台に立ち続けたのだった。