トリップしたら国王の軍師に任命されました。
舞台から降りたふたりは、一緒にジェイルの部屋に帰った。
「ああ、疲れた」
ジェイルは重たいマントを脱ぎ捨て、大きなベッドにその身を横たえた。
山小屋全体よりも広くなってしまった部屋の天井を見上げ、椅子に座った明日香もホッとため息をつく。
「お疲れ様でした、おふたりとも」
タイミングよく、ペーターが顔を表す。その後ろにはティーポットと焼き菓子が乗ったトレイを持った侍女が。彼女はそれをテーブルに置くと、すぐに去っていった。
ペーターは前国王の元重臣だったが、今はジェイルの側近という地位に落ち着いている。若い頃のように働けないし、バックスと争いたくもないと、自ら宰相の地位を辞退したのだった。
「兄たちに命を狙われることはあるかもしれないと思っていたが、まさか俺が国王になるとは」
ベッドから起きたジェイルが、どっかりと椅子に座る。
彼は三男。自分にまで王位が回ってくるとは、夢にも思っていなかったらしい。
「情勢が悪くなってから、こういうこともあり得るのではないかと、私は思っていましたよ。例の予言もありましたしね」
「占いなど、俺は信じておらんと言うに」
穏やかな顔のペーターに渡されたティーカップをひったくるようにして、中身をぐびぐびと飲み干すジェイル。さっきまでの“威厳ある美しき国王”から、“野性味溢れる兄ちゃん”に戻ってしまっていた。
「殿下……いえ、陛下なら大丈夫ですよ。私もついていますし、アスカさんもいる」