トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「俺は女が政や軍事に口を出すのはいかがなものかと思うがな」
ジェイルは不機嫌そうに焼き菓子を齧る。明日香はムッとした。
「なに時代遅れなこと言っているの。これからの君主たるもの、有能なら性別・身分問わずに取り立てていくべきよ」
早口でまくしたてる明日香から、ジェイルはツンと顔を逸らす。
その態度が気に入らなくて、さらに何か言ってやろうと思った時、つんつんと肩をつつかれた。振り返ると、ペーターが笑いを堪えるような顔をしていた。
「アスカさん、陛下はあなたと穏やかに暮らしていたかったんですよ」
「えっ?」
「山奥で、可愛い奥さんと、明るく楽しい毎日を送りたかった。だけどこんなことになってしまい、拗ねているんです。しかも自分よりあなたの方が軍事に積極的で、かなわないと思うから……」
「黙れ! 誰が拗ねていると言うんだ!」
ジェイルは怒鳴り、拳でテーブルを叩いた。
「そうなの?」
明日香が首を傾げ見つめると、ジェイルはぐっと喉を詰まらせるように黙る。
「では、私はこれで。夕食の準備ができたら誰かが呼びにきますから、気を抜きすぎないように」
ペーターは微笑み、部屋を出ていった。
明日香はもう少しジェイルで遊びたい気分だったが、あまりへそを曲げられても困るので、やめておいた。