トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「ブスで結構、晩飯食うなー」

「ああ?」

「欲しい物があったら力ずくで奪うの? 今時海賊だってそんなことしないわよ。頭を使いなさい、頭を」

 とんとんと指で額をつつかれ、少年は彼女の指先に噛みつこうとする。明日香はさっと手を引いた。

「もしお嬢さん、私の娘を放していただけないか」

「娘?」

 突然話しかけられ、明日香は横を向いた。そこには、短身痩躯の中年男性が立っていた。少年と同じ、袖のない衣服からのぞいた腕は真っ赤に日焼けしている。髪は明日香の世界で言うドレッドヘアに似た編み込みだ。

「一部始終を見ておりました。迷惑をかけて申し訳ない」

「あ、あんた、ディケーターさん……!」

 ディケーターと呼ばれた男は店の大男に代金を支払い、ジェイルに会釈した。ジェイルは少年の手を放す。

「っていうか、女の子だったんだ……」

 たしかに髪が長いなと思ったんだけど、あまりにワイルドだからてっきり少年だと思い込んでいた。少女はディケーターに引き渡され、別人みたいにおとなしくなった。

「ところでお嬢さんはどちらからいらしたのかな。とても変わった見た目をしている」

 父親に尋ねられ、明日香はどう答えたらいいか、一瞬悩んだ。彼は微笑んでいるように見えるが、その眼光の鋭さは隠しきれない。
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