トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「彼女に用があるなら、システインの王城を訪ねるが良い」
代わりにジェイルが言った。警戒心を露わにした低い声に、父親は微笑みで答えた。
「高貴な身分のお方でしたか。これは失礼しました」
「い、いえ……」
「私はよくこの辺りをうろうろしております。なにか御用がありましたら、いつでも声をかけてください。娘を叱ってくださったお礼に、力を貸します」
ディケーターの言葉に、明日香は笑みを零した。“助けてくれた”お礼ではなく、“叱ってくれた”お礼をするという。視線は鋭いが、ユニークな男だ。
「ありがとう。私は明日香」
「アスカ。覚えておきましょう」
握手を交わすと、ディケーターはおてんば娘の手を引き、悠々と歩いていった。
「ねえ、あの人有名なの?」
店の男に、明日香は尋ねる。
「有名も何も、ありゃあこのへんの海賊の頭領じゃねえか!」
「ええっ!」
明日香は遠ざかっていくディケーターの背中で揺れる編んだ髪を見た。
「またえらい大物に恩を売ったものだ」
ジェイルも驚いたようだ。
(日焼けしすぎとは思ったけど、まさか海賊だったとは)
「待って! ちょっと待って!」
明日香は我に返ると、ディケーターの後ろを追いかけた。ぎょっとしたジェイル、そしてアーマンドは慌てて彼女の背中を追った。