トリップしたら国王の軍師に任命されました。
やがて肉眼でも見える距離に、敵が近づいてきた。揺れる大地に両足を踏ん張り、明日香は采配を握る。手のひらには汗がにじんでいた。
「まだよ」
采配を振り上げた明日香を乗せたジェイルの馬が、鉄砲隊の後ろを行ったり来たりする。柵の前、敵が射程距離にじゅうぶん入ったところで、明日香は采配を振り下ろした。
「撃てっ!」
甲高い声が戦場に響く。次の瞬間、千の銃の弾丸が一斉に敵に向かって放たれた。
聞いたこともない轟音に、ジェイルが顔をしかめる。耳を塞いだ明日香は、硝煙の向こうの敵に目を凝らしていた。銃弾を受けた馬から放り出された兵士たち。直接被弾して絶命した者もいる。
しかし、敵の先頭を蹴散らしただけでは戦は終わらない。
「交代! 第二隊!」
兵たちが持っている鉄砲は、いわゆる火縄銃。次の弾を発射するまでに三十秒はかかる。タイムロスをなくすため、明日香は鉄砲隊を三列並ばせていた。織田信長が考案したと言われる『三段撃ち』と呼ばれる作戦である。
第一隊が撃ち終わり、さっと列の最後尾にさがる。代わりに前に出た第二隊が銃を構えた。
「撃てッ」
明日香の下知が飛ぶ。向かってきた敵に、またも銃弾の雨が降り注いだ。
「た、退却だ」
新型兵器に歯が立たないと悟った敵が、退却を図る。しかし、そこへ次の騎馬隊が押し寄せてきた。