トリップしたら国王の軍師に任命されました。
一応こくんとうなずいた明日香に、支店長はたたみかけてきた。
「本当? じゃあ今月は何件電話したの?」
(覚えているわけないじゃん。支店の成績が良くないのを、全部私のせいにして八つ当たりしやがって。このハゲ)
自分が支店の足を引っ張っているのは百も承知で、明日香は心の中で悪態をついた。
「ええと……十件くらい?」
「うそ。少ないでしょ。毎日一件電話しても、もう少しなんとかなるでしょ……」
ここから支店長の嫌味はオートリバースだ。彼の気が済むまで、まったく同じ小言が繰り返されると明日香は知っていた。彼女は黙って耐える。耐えるときは、座ったままの支店長のバーコードハゲを眺めることにしていた。
「っは、あ……っ!」
ベッドからがばりと飛び起きた明日香は、座ったまま目をゴシゴシとこすった。
おそるおそる目を開けて周囲を見渡す。アールヌーボーな柱や家具、天井の壁画。ここが異世界だと確認すると、深い深いため息を吐く。
「こっわあ……」
元の世界の夢を見ていたようだ。ハゲ支店長のバーコードの模様がリアルに思い浮かび、ぞくりと肌が粟立った。
(戦場の夢よりはいいかも……いや、やっぱりどっちも嫌だ)
「アスカ」
不意に低い声で名前を呼ばれ、顔を上げた。ドアの方を見ると、ジェイルが軽装で立っていた。
「目が覚めたのか」