トリップしたら国王の軍師に任命されました。
駆け寄ってきたジェイルは、両手で明日香の頬を包む。
「私……」
「戦いの後で倒れたんだ。ここは戦場から一番近い貴族の城」
王城に帰るには、何日もかかる。明日香を休ませるため、ジェイルと少数精鋭の兵士は近くの城に入り、泊めてもらうことになったらしい。
「丸一日目を覚まさなかったから、心配した。どこも痛いところはないか?」
明日香は考えてみた。後ろの方で指揮をしていただけで、怪我もしていないし、お腹も痛くない。
「大丈夫。きっと、疲れたのね」
プロリン城が奪われたという第一報から、興奮してあまり眠れていなかった。だから、ホッとしたと同時に気が抜けてしまったんだろう。
「よかった」
ジェイルは安堵のため息をつくと、明日香を優しく抱き寄せた。
「精神的に耐えられなかったんじゃないかと思った」
そう囁かれた瞬間、明日香の脳裏に戦場の光景がよみがえった。
映画やドラマとは全く違った。人々の悲鳴や馬の嘶き、騎馬隊が押し寄せるときの地震のような揺れ、鉄砲を撃ったあとの耳の違和感。そして、目の前で人が死んでいく恐怖。
無意識にそれらを感じることを、脳が拒否してフリーズした。ジェイルはそう言いたいのか。明日香は必死にその可能性を自分で否定した。