トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 恥ずかしくなってきた明日香はジェイルを止めようとしたが、彼は早口でまくしたてるように言い切った。

「とにかく! 俺はアスカと結婚する。これは譲れない。阻止しようとする者は、アスカ以上の軍師を連れてまいれ。以上だ」

 ジェイルが玉座にどすっと腰を下ろすと、また広間にざわつきが戻ってきた。

「宰相殿はどう思われる?」

「私は国王陛下の決定に異存はない」

 話を振られたバックスは、きっぱりと言い放った。この男が何を考えているか、明日香にはいまだにつかみきれない。

 けれど、明日香たちの留守中には、しっかりシステインを守ってくれていた。きっと悪い人ではないと、明日香は思っている。

「たしかに……この国のことを思えば、アスカ様が国王陛下の傍にいるのがいいのかもしれない」

 そんな声もちらほらと明日香の耳には聞こえてきた。

 結局、それ以上反論する者はいなかった。微妙な空気のまま、謁見の時間は過ぎ去った。

「ジェイル、本当にいいの?」

 外国の娘と政略結婚した方がメリットが大きい気がして、明日香は部屋に戻る途中の廊下で、遠慮がちに尋ねた。

「お前は俺と結婚するのが嫌なのか」

「そんなこと……。結婚できたら嬉しいわよ、もちろん」

 ぎろりと睨まれて、明日香は恐縮した。

「いいか、アスカ。お前は俺のものだ。誰にも渡さない」

 荒々しく明日香の腕を引き寄せ、ジェイルは彼女にキスをした。

(いつの間にか、国王らしくなっちゃった)

 彼は国王。本来なら、誰にも指図される立場ではないのだ。

 以前は乗り気じゃなかったのに、今ではすっかり国王の威厳を全身に纏っている。彼の言葉に、皆が反論できなくなるくらい。

 明日香はジェイルの背中に手を回し、ぎゅっと抱きついた。

(覚悟を決めるしかない)

 軍師になるのと同じくらい、国王の花嫁になるのは勇気が必要だったのだと、明日香は今更理解した。


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