トリップしたら国王の軍師に任命されました。
 ある日、ジェイルの元に、一通の書状が届いた。

「援軍を求めるだと」

 眉間に皺を寄せるジェイルの横で、明日香は覚えたてのシステイン語の知識でそれを読んでみようとした。が、やはりわからない単語が多く、結局通訳してもらうことに。

「我が国と友好を結んでいるアミノ国が、隣のグアニジムに攻撃を受けたらしい」

 アミノ国はシステインから三つ小国を挟んで西方に位置する。昔からそのさらに西のグアニジムと友好関係にあったのだが、最近システイン側に寝返った。

 それに怒ったグアニジムが、アミノ国を降伏させようと攻撃を仕掛けてきたということだ。

 衝突を繰り返し、互いに弱った両軍は、今はそれぞれの城塞に戻り、機会をうかがっている。

「こんなときに……」

「しかしここでアミノ国を見捨てれば、友好国の心が一気に離れていきます」

 バックスの言葉にジェイルは遠慮せず、深いため息を吐く。だが、すぐに決断したように顔を上げた。

「すまない、明日香。救援を求める者を、見捨てるわけにはいかない。結婚は延期だ」

 重臣が集まった部屋に、重々しい空気が漂う。ついこの間、激しい戦いが終わったばかりだというのに。そうそう戦いたくないのが人情である。

「アミノ国がグアニジムと手を組み、我々をおびき寄せている可能性は?」

 アーマンドの問いかけに、明日香は考えた挙句、首を横に振った。

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