トリップしたら国王の軍師に任命されました。
ほとんど戦わずに勝利をおさめた明日香を、システインの兵士たちが褒めたたえた。その時。
「敵襲! 敵襲!」
突然見張りの兵が叫んだ。アスカがハッと振り向くと、鋭い何かが、目の前を風のように飛んでいった。
縮み上がる心臓を落ち着けながら見ると、水浸しになっていない後方の地から、敵が徒歩で近づいてきている。見たことのない紋章がついた甲冑を着ていた。
「敵の援軍だな。いつの間にか、後ろに回り込んだか」
ジェイルが剣を抜いた。
「我が名はジェイル! 俺の首を取りに来たのはどこのどいつだ!」
堂々としたジェイルと対照的に、敵は黙ったまま名乗らない。あっという間にジェイルの周囲を味方が囲む。今回は湿気が多くなることがわかっていたので、アミノ国の城に鉄砲は置いてきている。
「あの女が噂の軍師か」
「なりたての国王はいい。軍師を殺せ!」
高地にある堤防に、敵軍が向かってくる。自分に向けられたむき出しの敵意に、明日香は震えた。
「弓用意!」
高さの利はシステイン側にある。ジェイルの号令で、兵士たちは一斉に、背中に背負っていた弓を構えた。
「撃てっ!」
堤防にずらりと並んだ兵士から弓が放たれる。低地から攻めてくる敵が、バタバタと倒れた。敵は援軍のごく一部のようで、その人数は三百人ほど。