トリップしたら国王の軍師に任命されました。
弓を受けなかった敵兵が、堤防に登りはじめた。それでも明日香は動かずにいた。
「どんどん撃て!」
ジェイルの言う通り、兵士たちは休むことなく矢を射続ける。しかし、ついに敵兵が堤防の上に到着しはじめた。
「国王陛下、あちらへ!」
兵士たちが剣を抜く。ジェイルはうなずき、アーマンドがいる方へと明日香の手をとって駆け出した。堤防を抜ければ、アーマンド率いる味方の兵が集まっている。
「軍師を逃がすな!」
後方から聞こえる声が、明日香の背中に刺さる。
(敵の狙いはジェイルじゃない。私なんだ)
導かれるまま走るうち、明日香の目前に敵兵数人が躍り出た。堤防を登ってきた彼らは、息が上がっている。
「覚悟!」
兵士たちは明日香に向かって斬りかかる。
(ダメだ。死んだ)
観念してぎゅっと目を瞑った明日香。しかし襲ってきたのは刃による痛みではなく、金属が擦れて発生した火花と甲高い音だった。
おそるおそる目を開ける。と、ジェイルが自分の剣を抜き、敵の剣を受けていた。
「ジェイル!」
ジェイルは刃をはじき返す。彼は大勢の敵を目の前にしても怯むことなく、明日香を背で守るように立っていた。