トリップしたら国王の軍師に任命されました。
銀行に勤めている頃、同僚の女性行員には綺麗な人も地味な人もいた。明日香はと言えば、銀行の身だしなみ規定から外れぬように、薄めのメイクと、顔にかからない前髪だけに気を付けていた。
一秒でも早く帰りたかったので、通勤服は着替えやすければそれでよかった。どうせ、どこにも寄る予定はない。
「こんな私でいいのかな」
途方に暮れた明日香は、我知らず小声で呟いた。それをビアンカは聞き逃さなかった。
「結婚前には皆憂鬱になる時期があるんですよ。と、もうお嫁に行ったお姉様が言っていました」
「マリッジブルーってやつね。そうかもしれない」
「ほら、この生地なんてどうでしょう。アスカさまは背が低いから、すとんとしたデザインより、ふんわりと広がる裾の方が似合いそう」
一生懸命自分を盛り上げようとしてくれるビアンカに、明日香は申し訳ない気分になった。
「いっそ軍服の方がいいんじゃないかしら」
「えっ?」
「だって、みんなが望んでいるのは、軍師の私だもの」
見た目も普通で、元は落ちこぼれ銀行員で、歴史オタクで彼氏もいない。
国民やジェイルが望むのは、そんな生まれたままの明日香じゃない。戦場で采配を振り、大声で叫ぶ軍師明日香なのだ。