トリップしたら国王の軍師に任命されました。
そう考えると、明日香はドレス姿で人前に立つのが怖くなってきた。
「ジェイルは私と結婚しちゃって、本当にいいのかな。だってこの世界にはビアンカみたいに綺麗な人がいっぱいいる。女子力の高い、高貴なひとが……」
軍服を脱いでしまえば、自分にはなんのとりえもない。なのに国母なんて重責に耐えられるだろうか。みんなはいずれ、本当の自分の姿にがっかりしないだろうか。
明日香の頭を、暗い考えばかりが巡る。
「国王陛下は、軍師になってからのアスカさまにプロポーズされたんですの?」
ビアンカが首を傾げた。
「え……あ、違うの。プロポーズされたのはもっと前で……」
「じゃあ、何も悩む必要ありませんね。陛下は軍師でない頃のアスカさまを好きになったんですもの」
にこりと笑うビアンカの唇が、花びらのように見えた。
「あ、ああ……でも、あのとき、ジェイルはただの山男で、身分を隠していたの。だから身寄りのない私がちょうど良かっただけじゃないかしら」
明日香も彼氏がいないが、ジェイルもおそらく親しくしていた女性はいないのだろう。子供の頃からペーターとふたりきりで山奥に身を隠してきた。
誰かと仲良くなって、素性がばれることがあってはいけない。明日香はそんな彼の前に、ひょっこり現れたのだ。