トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「まあ、そんなことを聞いたら陛下はお怒りになりますわよ」
「だって……」
「じゃあ、あとはご本人に直接訪ねられた方がいいですわね」
ビアンカの視線が動いたことに気づいた明日香は、ゆっくりと後ろを振り返った。すると部屋の入口に、軍服を脱いだ、軽装のジェイルが立っていた。
「失礼いたします」
ビアンカは優雅にお辞儀し、すっとその場から立ち去った。ひとりにされた明日香は生地の海に座り込んだまま。
(今の話、聞かれた?)
どぎまぎするけど、ジェイルは特別気分を悪くしたふうでもない。
「……なかなか決まらないようだな」
ジェイルはゆっくり近づいてくると、色とりどりの生地の見本に埋もれる明日香の前に立った。
「ど、ドレスなんて初めてだから」
慌てて明日香も立ち上がる。
「こっちでは、花嫁のドレス色に規定はないんだ。強いて言えば、濃い色より薄い色が好まれるそうだ」
「ええ、ビアンカに聞いたわ」
明日香はさっと、白い布を摘み上げた。
「私の世界では、花嫁は白を着るのが一般的なの。カラードレスはお色直しで……」
「白か。似合いそうだ」
ジェイルは明日香の布を取り、彼女の胸辺りに広げてあてる。が、すぐにそれを置いた。
「なあ、少し外に出ないか」
「えっ」
「気分転換に誘いに来た」
ごく自然に、ジェイルが手を差し出す。
「うん、行く」
明日香も自然にそれを握った。素直に、外の空気を吸いたいと思った。