トリップしたら国王の軍師に任命されました。
ジェイルに連れられ、簡素な普段着ドレスの明日香がたどり着いたのは、城の裏側にある庭だった。
庭と言っても日本の狭い庭ではなく、広い湖つきの庭園。湖の上には丁寧にボートまで浮かんでいる。王族のプライベート湖と言ったところか。
「おいで」
ひょいとボートに乗り込んだジェイルの手を取り、明日香もおそるおそる続いた。ゆらゆら揺れるボートの上で、慎重に腰を下ろす。
「すごい眺め」
周りは背の高い常緑樹に囲まれ、その向こうにはてっぺんに雪の帽子をかぶった山脈が。
ジェイルがボートを漕いでくれる。湖の上を移動すると、景色が角度を変える。
「ん~、いい気持ち」
明日香がのびをすると、ジェイルがふっと笑みを漏らした。
「やっと笑ったな」
「え?」
「城に連行されてからというもの、お前のそういう顔をほとんど見られなかったような気がする」
ジェイルに言われて、明日香は無意識に自分の頬を撫でた。
(私、いつもどんな顔をしていたんだろう……)
ボートを漕ぐ手を止め、ジェイルが頬を撫でる明日香の手に、自分の手を重ねる。
「戦術や戦略を考えているときは楽しそうだったが、戦地ではずっと緊張して強張っていた」
「う……そう、かな……」
ビアンカに話した通り、明日香は自ら戦地に赴くことを望んでいたはずだ。