トリップしたら国王の軍師に任命されました。
(だけど、それは義務感からであって、楽しいからじゃなかった)
最初は映画を見ているようだったけど、それが現実として接近してきたとき、初めて肌で恐怖を感じた。
怖いなら、作戦だけ立てて城の中に引っ込んでいればいい。だけど、明日香はそうはできなかった。
(目を逸らしちゃいけないと思ったから……)
戦争に正義も悪もない。自分の作戦で味方は助かるかもしれないけど、敵には犠牲者が出る。その事実を無視できるほど、明日香は無神経ではなかった。
「当たり前だ。俺だって、大勢の敵を目の前にすれば体が震える」
「うそ。あんなに強いのに。いつも平気そうな顔をしてるし」
「そりゃあ、国王が青ざめていたらみんなが不安になるだろ。それに、俺はお前やみんなを守る義務がある」
ジェイルの表情が心なしか硬くなる。
(そうか。ジェイルもいきなり国王になっちゃって、戸惑っているんだ)
そんな当たり前のことに気づかなかったことを、明日香は恥じた。
(いきなり自分が自分でなくなってしまったようで混乱していたのは、私だけじゃない)
強い無敵の男だと、ジェイルのことを思っていた。でも彼だって、自分と変わらない部分がある。明日香はジェイルのことをより一層愛しく感じた。