トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「俺は、お前の軍師としての才能に惚れたわけじゃない」
うつむいていた明日香が、顔を上げる。
(やっぱり聞いていたのね。ビアンカと私の話を)
愚痴を聞かれていたと思うと恥ずかしくて、明日香の頬は熱くなる。
「山の中で無邪気にはしゃいでいたお前を好きになったんだ」
ジェイルは長い指で明日香の頬を撫でる。
「俺が他の女性を知らないからお前を選んだだと? バカにするな。買い物で山を下りた時、若い女に声をかけられたことは何度もある」
これだけの美形は、マントで顔を隠していても女性が寄ってくるのか。明日香は感心した。
(でも、それって顔を見知っただけで、「女性を知っている」ことにはならないんじゃあ……)
少し疑問も残るが、黙って続きを待つ。
「俺はお前がいいんだよ、アスカ。もう何度も言っているけど、嫌になったらすぐ国王も軍師もやめて、山奥に帰ってもいい」
「山奥に……」
現実問題、それはもう不可能だろう。ふたりとも名を売りすぎてしまった。しかも明日香は「異世界から来た軍師」として、敵対国の恨みの的になってしまっている。
「山男の俺が好みで、血まみれで戦う俺が嫌いになったなら、無理に結婚しなくてもいい。もちろん、そうなったらまた口説きなおすのみだが」
「え……?」