トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 ジェイルの結婚宣言から一か月後。

 穀物の収穫時期と重なったせいか、奇跡的に近くのどの地域でも大きな武力衝突は起きなかった。

 システインの人々は一時戦乱を忘れ、新国王の結婚を祝った。

「ついにこの日が来た……」

 ドレスを着た明日香は、緊張で吐きそうになっていた。

 髪をアップにされ、頭にはティアラ。純白のドレスを着た明日香の膝が震える。

(ノーミスで一日を終えられるかな)

 数日前まで数回リハーサルをしたが、緊張のために段取りを忘れそうになっている。明日香には不安しかなかった。

 侍女たちに式場となる王室礼拝堂の前まで案内されると、その前にペーターがいた。

「これはお美しい。国王陛下もお喜びになることでしょう」

 目を細めて賛辞を述べたペーターは、腕を差し出す。

「さあ、皆さんお待ちかねです。深呼吸して。落ちついていきましょう」

「はい」

 明日香がうなずいてペーターの腕をとると、見張りの兵士たちが扉を開けた。

 楽隊の奏でる音楽が、丸いカーブを描く天井に反響する。一階も二階も、参列した貴族で溢れていた。

 王室礼拝堂は城の敷地内の中にあるが、王族以外は許可なく立ち入ることを禁止されている。明日香は初めて見る色鮮やかな天井の絵画や大きなシャンデリアに圧倒された。

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