トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「では、儀式を執り行います」

 祈祷台に立った神官が、あーだこーだと長い口上を述べた。彼の司会によって儀式は滞りなく進んでいく。

(次はいよいよアレだわ)

 明日香にとってこの式のメインイベントがやってきた。

「次は誓いの盃を」

 礼服を着た貴族が、ふたりの前にガラス細工のような透き通った盃を小・中・大と三つ持ってきた。

 修道女が小さい盃に赤い葡萄酒を注いだ。先に受け取ったジェイルがそれを飲み干すと、修道女に返す。彼女は新しい酒を盃に注ぐと、今度は明日香に差し出した。

 そう、この儀式は「三々九度の盃」の儀式と似ているのである。

 神に対して夫婦の契りを交わすこの儀式は、日本古来のもので、もちろん明日香の大好きな戦国武将たちも行っていたと思われる。

 彼らと同じ儀式というだけで、明日香のテンションは上がる。指輪の交換より、誓いの言葉やキスより、三々九度がいい。そんな女子は、彼女の周りにはひとりもいなかった。

 三の盃まで飲み干すと、参列者から拍手が沸き起こった。

「誓いのキスを」

 今度は神にではなく、夫婦の契りを交わすために行う儀式である。

 飲み慣れない酒ですでにほろ酔い状態の明日香の肩を、ジェイルがそっと抱く。

「とても綺麗だ」

 唇が触れる直前に、ジェイルは明日香にだけ聞こえるように囁いた。

 参列者に見せつけるための長いキスに、心臓が激しく脈を打つ。

 リハーサル通りの長さで唇を放したジェイル。三々九度の時よりさらに大きな拍手が、ふたりを包んだ。

< 97 / 188 >

この作品をシェア

pagetop