トリップしたら国王の軍師に任命されました。
「では、儀式を執り行います」
祈祷台に立った神官が、あーだこーだと長い口上を述べた。彼の司会によって儀式は滞りなく進んでいく。
(次はいよいよアレだわ)
明日香にとってこの式のメインイベントがやってきた。
「次は誓いの盃を」
礼服を着た貴族が、ふたりの前にガラス細工のような透き通った盃を小・中・大と三つ持ってきた。
修道女が小さい盃に赤い葡萄酒を注いだ。先に受け取ったジェイルがそれを飲み干すと、修道女に返す。彼女は新しい酒を盃に注ぐと、今度は明日香に差し出した。
そう、この儀式は「三々九度の盃」の儀式と似ているのである。
神に対して夫婦の契りを交わすこの儀式は、日本古来のもので、もちろん明日香の大好きな戦国武将たちも行っていたと思われる。
彼らと同じ儀式というだけで、明日香のテンションは上がる。指輪の交換より、誓いの言葉やキスより、三々九度がいい。そんな女子は、彼女の周りにはひとりもいなかった。
三の盃まで飲み干すと、参列者から拍手が沸き起こった。
「誓いのキスを」
今度は神にではなく、夫婦の契りを交わすために行う儀式である。
飲み慣れない酒ですでにほろ酔い状態の明日香の肩を、ジェイルがそっと抱く。
「とても綺麗だ」
唇が触れる直前に、ジェイルは明日香にだけ聞こえるように囁いた。
参列者に見せつけるための長いキスに、心臓が激しく脈を打つ。
リハーサル通りの長さで唇を放したジェイル。三々九度の時よりさらに大きな拍手が、ふたりを包んだ。