リアル人生ゲーム(裏)


なにもかもが、スローモーションに見えた。


ナイフを持つ手を引き、私の胸に向かって突き刺そうとする未知瑠。


顔半分が岩のようにゴツく、憎しみに満ち溢れている。


私は逃げることもできず、ただ突っ立っていた。


そこに__。


なにかが突っ込んできたんだ。


ううん、私は分かっていた。


それが、彰だということを。


「光莉‼︎」


そんな声がしたからだ。


彰が私の前に、大きな影となる。


私を抱きすくめるように、未知瑠に背を向けた。


「うっ!」


切ない声が漏れた。


「__彰?」


身をよじって、無事を確かめようとするが、彰の抱擁はどんどん強くなっていく。


どんどん。


どんどん。


「は、離して?」


「光莉」


「彰、離してよ」


自分の声が、泣いていた。


彰が強く強く抱きしめるのは、私に縋(すが)っているからじゃないのか?


命を手放さないよう、私を離さないんじゃ__?


その時、けたたましい悲鳴が轟いた。


誰かが、トイレに入ってきたんだ。


「さ、刺されてる!」


彰の背に、ナイフが深々と突き刺さっているのを私が知ったのは、しばらく後だった。


ずっと、ずっと彰を抱きしめていたから。


< 197 / 265 >

この作品をシェア

pagetop